「情報」って何?

Gori note

もしも、この世に「情報」というものがなかったとしたら…。

 

とある国。
あ、このお話はフィクションです。

「王、ちょっとお耳を拝借。」

王の懐刀といいますか、
厚い信頼を得ている情報相が、そっと耳打ちしました。

「世は、少し不穏な動き。よからぬ兆しを感じます。」
「何…どういうことだ?」

「クーデターです。その可能性といいますか…。」
「分からん。まったく平和に思えるが…。」
「ネットです。水面下でどうやら情報交換がさかんに…。」
「なんだネットか。心配に及ばん。」
「ところが現代は、ネットがクーデターの引き金にも…。」
「それは本当か?ただならぬ事態のようだ。」

王は少し考え、
(いや、“ほとんど何も考えず”が正しいかもしれませんが)
情報相に対し、ある命令を下しました。

「この世から、ありとあらゆる情報を消してしまえ!」と。

今回のメルマガは、
ボクの妄想話を交えながら(笑)、
「情報」というものの本質を考えていきましょう。

■インターネットを消す

命を受けた情報相が、
まず手始めに着手したのは、
「インターネット」の概念を消すことでした。

とても不思議なことですが、
この情報相、
国民の記憶から「概念」を消し去ることができるのです。

「インターネットの誕生によって…」
情報相は、家臣たちに口を開きました。

「一般市民、誰もが情報を発信できるようになった。
これが人類史においても、大きな情報革命の一つだ。
むろん、これによって世の中の情報量が、
爆発的に増えたのは、みなも周知のとおりだ。

しかし注目すべきは…、

情報を受ける者の、気もちの持ちようだ。
インターネット以前は、
1人の“専門家”の話を“真実”として捉えられておった。
ところがネットの普及によって、
状況は変わった。
1人の専門家の話よりも、
10人の素人が“異口同音にかたるコトバ”の方が、
“真実”として捉えられる。
問題はそこにあるのだ。」

といって、
「記憶を消去するスイッチ」を押しました。

するとたちまち、世界が変わりました。
というより、昔に戻ったのかもしれません。
一言で言うと「声の大きい者」の天下です。

国民はみんな、
新聞やテレビ、ラジオの言うことを信じます。
権力のある政治家の声に、耳をかたむけます。
有名企業の広告に、踊らされます。

それがたとえ、
ウソや欺瞞、誇張、偏見であったとしても。

一人一人の価値観や考え方が、
メディアによって一元化されます。

如何にいわんや、
権力ある者の方へ、“力”のベクトルが集まってきました。

これには王も、大満足。
もしかしたらこの方法で、
頭痛のタネだった「反骨分子」を
消し去ることができるのではないか。

■メディアを消す

「ならば“メディア”という概念を消しましょう。」
情報相は、冷ややかな面持ちで話を続けました。

「つまりテレビ、ラジオ、新聞、雑誌といったもの。
要は、王への批判意見が、
国民に伝達されるすべを断ち切ればいいのです。

メディアは、大衆を煽動するのに、
とてつもなく力を発揮します。
独裁者ヒトラーも、
この方法で大帝国を作ったのです。

ともすれば、戦争の引き金となるメディアを…。」
そういってスイッチを押すと、
たちまち人々の記憶から「メディア」という概念が消え去ってしまいました。

すると、どうでしょう。
一般市民のすみからすみまで、情報が伝わらなくなりました。
王への批判意見も、空中分解です。
王室で何がおこっているのかを、
国民は知る由もありません。

この日を境に、王は悠々自適。
贅沢三昧なくらしを、
人目もはばからずできるようになりました。

たくさんの“もの”を作っても、
「広告」という概念がなければ、
たくさん売れ残ってしまうので、
大量にものが作られることもなくなりましたし、
そうなると「企業競争」という概念が弱まるのか、
「いろいろな商品」「いろんな種類のサービス」も
なくなってきました。

いわば、国民の「豊かさ」が色あせてきたのです。
でも「世の中のこと」を知らない国民は、
そのことにさえ気づきません。

■印刷を消す

そんなことを尻目に豪遊する王は、
さらに続けました。
「これはいい。もっと国民から“知識”を取り上げよ。
賢者なる者は、王室のまわりのみでよい。」
そう言われた情報相は、
次に「印刷」という概念を消去しました。

すると「知識」は複製されることがなくなり、
オリジナルな知識は、いわば門外不出。
「賢者」は、王室のまわりにしかいなくなります。
同時に「教育」という概念もなくなり、
結果として「身分制度」が甚だしくなりました。
奴隷がたくさん生まれたのも、言うまでもありません。

■文字を消す

笑が止まらぬは、王。
絶対君主。
もはや、誰も王を批判するものはいません。

ただ、1つのネック…。
それは、息子。
この特権を狙い、いつ寝首をかかれてもおかしくありません。

「では“文字”と“図”という概念を消しましょう。」
と、情報相。
文字や図さえなくなれば、
「知識」が次の世代に、正しく伝わらないというのです。

文字や図のない世界。
そこは「文明」という概念すら、消え失せた世界です。
「口伝」しか、情報伝達のすべがない。
ということは、すなわち、
「不確かな、うろ覚え」のコミュニケーションしか成り立ちません。
伝言ゲームの世界です。

正しい情報が共有されないので、
たくさんの人々が力を合わせてなし得る、
建築、都市設計、水道事業や、公共のルールなど、
公共事業もすすめることができません。
もはや国は、小さなムラの集まりです。

■ことばを消す

ルールのない、小さなムラの集まり。
それは、国の中で、
小さないさかいが、たびたびぼっ発することに。
面倒に思った王は、
次に、人間から「ことば」を奪いました。

言うまでもなく。
ヒトからヒトへ、情報が伝わるすべがなくなると、
創造的ないとなみができなくなってしまいます。
つまり、自分たちで農作物をつくったり、
食物を保存したり。

こうなると、人々が集団でくらす意味もなくなり、
みんな、散り散りバラバラになってしまいました。
「社会」という概念もなくなったんですね。

■情報を消す

これに怒ったのは、王。
情報相を呼び出し、一気にまくしたてます。
「誰が国家を滅ぼせと言った。
情報相は解任だ!
“情報”という概念とともに、消えてしまえ!」

これが、情報相の「最後の仕事」になりました。

「ヒト」のいなくなった、美しい原世界から…、
動物や昆虫たちが生きるために必要な、
「色」や「香り」「音」といった情報が消失すると、
一気に世界はモノクロームから、
黒一色の世界へ。
いや、黒という概念すらない。
となると「形」や「存在」という概念さえなくなります。

「無味」「無臭」「無色」「無音」「無感覚」。
「無」だけが、そこにある。
いや、ない。

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